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2011 年「そろばん日本一」 〜 若松選手とお話ししてみました

その 3. そろばん一筋の効能 〜 若松選手のつくり方

【ma-.】ところで, 若松君がそろばんを始めた時期, きっかけはどのようなものだったんでしょうか。


練習会風景

某練習会風景

【若松】時期は 5 歳のはずです。たしか。

 きっかけは何なんでしょう。両親が大学の珠算部で出会った二人なので, 「とりあえず子供にもやらせてみようか」くらいの感じでしょうか。今度聞いてみますね。


【ma-.】今度と言われましても, また取材するの面倒なんですけど……(笑)

 で, 「とりあえず」で始められたそろばんみたいですけど(笑), 生まれて初めて触ったときのことなんて覚えてますか?


【若松】はい。「なるほど〜。五の合成・分解は入れてから取り、十の合成・分解は取ってから入れるのか〜」って感心したことを良く覚えています。


 ってそんな訳ないよね(笑)。全く覚えていません。


【ma-.】始めた当初から熱中していた感じなんですか?


【若松】熱中していたはずです。自分でもどんなだったか見てみたいです。


【ma-.】それほどまでに覚えてない時代から始めてたってことですね。

 そろばん以外に熱中したことって, 何かありますか?


【若松】サッカー, RPG(ロールプレイングゲーム)。そんなもんかな。

 いろんなことを楽しくやっているけど, 熱中とまではいかないですね。


【ma-.】途中で挫折したり, しそうになったり, もうやめたいと思ったりしたことはなかったんですか?


【若松】いくら頑張っても全国大会に行けなかったり, 伝票計算の時に最後の方でフッと答えが頭から消えるという謎の病にかかったり, 壁はいろいろありましたよ。

 でも, 辞めたいとまで思ったことは無いと思います。バイトと練習で忙しすぎてイヤになったことはあります。


【ma-.】おっと, アルバイトやってたんですか! 時間のやりくりが大変そうですが……

 それで思ったんですけど, 学校の勉強との両立って, どのようにしてましたか?


【若松】高校受験も, 大学受験も, 公務員受験も, 普通に週 3 で練習行って, 日祝日は朝から夕まで練習していたはず。

 珠算誌サンライズにも書きましたが, そもそも両立という言葉は, 勉強の妨げになるものに対して使う気がしませんか? そうではなくて, きちんとそろばん塾に通い続けた方が, 頭のキャパは広がるし, 気分転換にもなると思います。


 「明日までに」なんていうスパンで猛烈な宿題を出されたときにまでそろばんをしなさいとは言いませんが。


(注)月刊珠算情報誌「サンライズ」については, http://soroban.us/index88.htm を参照してください。2011 年 10 月号に, 全日本で優勝した若松君の特集記事が組まれています。


全日本フラッシュ暗算風景

今大会中, フラッシュ暗算のひとコマ。
実は若松選手, このとき 15 口 1.79 秒で
全国 2 位となっています。

【ma-.】中学校時代, 高校時代と, まさか部活動なんて入ってませんよね?


【若松】はい。選手は部活禁止でした。でも, 全員部活に入らなければいけない学校もあるし, 勉強, スポーツ, そろばん, 恋愛と欲張って生きるのも悪くは無いと思います。


【ma-.】それがまさに「両立」ですよね。

 今, 学校では, いやもしかすると「採用する企業側でも」部活動神話みたいのが強いのはご存じかと思いますけど, そういった風潮に対して何か思うところはありますか? だって, そういった風潮が強ければ強いほど, 部活動にない種目, 例えばそろばんなど学ぶ人間が減る一方になると思うんです。


【若松】企業を受ける際に, きちんと「部活動に負けないくらい一筋にやってきました」としっかりアピールすればよいのでは。部活動しか認めない企業があるとしたら, 視野が狭いし, いい人材を逃していますよね。


 実際, 珠算一筋でやってきた人の多くは, 自分の希望する職業につけています。そういったことを保護者の方にも伝えていかないといけませんよね。


【ma-.】そろばんに限らず, 何かに一定期間以上一生懸命取り組んできた方々って, 「何か」……何というのでしょう, オーラって言うんでしょうか, 「何か」を持ってますよね。企業が部活動を追い求めるのもそういった部分を考えてのことだと思うんですが, それが「部活動」だけだと考えるのはちょっともったいないですよね。


 そんな中にあって, 現在またそろばんブームがやってきていると言われていますが, その辺りはどう感じていますか?


【若松】毎年埼玉で開催されている「そろばんクリスマスカップ」を見ても, 初回の 2000 年は 400 人程度でしたが, 数年前から 1,000 人前後の参加者になっていますからね。嬉しいことです。


 でも, ブームでは無くて, 根付かせないといけません。本当に素晴らしいものなんだから、自信を持って積極的に広めていきたいですね。


【ma-.】それよりも私は, ブームとは言え「続ける人」が減っていることが気に掛かります。それこそ地方の大会で優勝するレベルの方が中学校や高校に入るタイミングでスパッ! とやめたり, かなりありませんか? そして大抵, その理由を聞くと「塾に行くから」とか, 「部活動に入るから」と言う。

 先程の話とダブりますが, 確かに新しいことを始めることも重要で, しかもそろばんはちょっと自分と合ってなかったというなら話はわかるのですが, ひとつのことを長く一生懸命続けることも重要だと思うんですよね。だからかなり気になっています。特に「塾」なんて, 両立できそうなモンですけどね。


【若松】そうですよ。甲子園を目指している野球部なんかに所属してしまうと, さすがに厳しいかもしれませんが, それでも心のどこかに「そろばん」を置いておいて, 来れるときだけでも練習に来てほしい。長く続けて, 大人になってからのそろばんは本当に楽しいので, それを伝えたくて, サインを求められた時には「そろばんは二十歳から」なんて書いています。


【ma-.】結構, 親が子供の教育に熱中しすぎて子供がそのうち冷めてしまうというパターンもあるかと思いますけど, 楽しくそろばんを続けられる秘訣って何かありますかね。


【若松】それはありますよね。基本的に強制されたり, 無理やりさせられることって楽しくないですからね。かといって多少の強制は無いと, 子供はずっと遊んでいそうだし。表情を見ながら, 多少は厳しくしながら, うまく乗せていってあげれたらいいですよね。

 ただ, 競争相手や, 一緒に練習する選手の存在は楽しく続けるためには不可欠の要素だと思います。


12桁100口の見取算問題

12 桁 100 口の見取算問題を作ってみた。
こんなの, 正解できる気がしません(笑)

【ma-.】そうですね。基本敵に競争することが余りに嫌いな人は向いてないかもしれません。というか, 本来競争が完全に嫌いな人間なんていないと思ってますけど(笑)

 ちょっと堅い話になってきたんで, ここでそろばんの昔話に戻しましょうか。

 若松君にとって, この練習は二度とやりたくない! とか, 逆にこういう練習が好きだった! というようなものってありますか?


【若松】先生がいろいろ変った問題を作ってくれたんですが, 私は見取算があまり得意ではないので, その見取の「12 桁 100 口」というような問題はつらかったです。


【ma-.】あはははは! 確かに昔から「掛け割りは若松, 箱物は大関」というイメージがありましたねぇ。私も箱物(見取算)は嫌いなんで, そうやって練習すると良いのかな? でもやりたくないなぁ。

 で, 好きだった方はどうです?


(注)「大関」とは, 大関一誠選手のこと。ここでは詳しく触れることはいたしません。あしからず。


【若松】極限のスピードでやる練習かな。「1 分で何題できるか」とか, 「皆で競争して, 一番に終わった選手が挙手」というような練習は好きでしたね。


【ma-.】それは最初の方で言いましたけど, 私が初めて練習会に参加したときの若松君の嘘くさいタイムでの挙手には本当に驚きましたよ(笑)。私には手の届かない世界ですけど, ここまで恐ろしいタイムだと見ているだけでも楽しかったです。「いつ手が挙がるんだ?」とドキドキしながらそろばんを弾いてました。

 そういった「チャレンジ精神の強さ」が若松君を日本一にしたんでしょうね。


【若松】そうなんでしょうかねぇ。


【ma-.】他に, 印象に残っているエピソードとかあるでしょうか。


【若松】そうですねぇ……

 小学生の頃, ある塾との合同練習会で, とても怖くて有名な先生のところと一緒に練習しました。練習中, その先生のところのある生徒が答え写し(カンニング)をしたことが発覚。計っている最中なのに, 先生はその子を別室に引きずって行きました。そしてしばらくして「ギャ〜」という悲鳴が別室から。皆, 震えながら練習を続けました。


【ma-.】何ですか, その怖い話(笑)


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